聴覚障害者はマナーができない?研修でショックを受けた話
2015年01月29日
スタッフブログ
岸田 奈美
.
前書き
こんにちは!ミライロの岸田奈美です。
普段は広報担当をしていますが、講師として研修にも伺っています。
KE_0626_001_320
こんな感じですね。
いつも自分が撮影する側なので、セルフタイマーで撮影したら小さくて見えません。
最近は、企業で働く障害者に向けて、
「ビジネスマナーや働き方」を話す機会が増えてきました。
障害者雇用が進んでいる証拠ですね。嬉しく思います。
今日は、1年程前に私が聴覚障害者にビジネスマナーを教えたとき、
経験したショックな出来事についてお話します。
現在は、この経験を元に、改良して講義に臨んでいます。
最近も講義をさせて頂きましたが、
講義を重ねる度に、改善点や新たな発見も見つかります。
聴覚障害者への研修を頼まれた!
「聴覚障害のある方が、中々ビジネスマナーを身につけてくれなくて…」
企業の人事担当の方から、困った様子でSOSを頂きました。
詳しく聞くと、そこで働く聴覚障害者はこんなことが苦手なようです。
● あいさつの仕方がわからない
● メールや手紙の文章がおかしい
● 上司やお客様に敬語が使えない
● 報・連・相ができない
どれも基本的なビジネスマナーですね。
「わかりやすい資料も配って、何度か教えているのですが…」と困り果てる担当者。
ならば、研修会という生の現場で、わかりやすく実演しましょう!
こういうわけで、私は聴覚障害者向けマナー研修会を引き受けました。
これまで、聴覚障害のある方には何度か弊社のイベント(ユニバーサルマナー検定)にも
足を運んで下さっていますし、アルバイトに来てもらったこともあります。
皆さん、マナーができていたので、きっとわかりやすく説明すれば大丈夫だろう……
と、その時の私は軽く考えていたのです。これが大きな間違いでした。
「ゲーム」「遅刻」「確認する」が伝わらない
当日、私はマイクを使って話し、手話通訳も頼んで研修に臨みました。
そして、講義をわかりやすくするためのスライドも使いました。
こんなスライドです。
スライド1 スライド2
開始早々、驚きました。講義が、30秒に1回は中断するんです。
それも、受講者から質問があるというわけでもなく。
完全に受講者の鉛筆を持つ手が止まるんです。
手話通訳者の方と協力して、受講者に聞いてみると、
「ゲームって、なんですか?」「遅刻って、遅れる、とは違うんですか?」
「カクニンって、どういう行為ですか?」
など、説明の意味がそもそも伝わっていないという状態。
驚きました。
当日受講してくれたのは、20〜50代の幅広い年齢層の方々。
自分が当たり前に使っていた言葉が、まったく伝わらない。
私は焦り、わからない言葉を一つ一つ確認して、噛み砕いて説明を続けました。
普段より何倍も時間がかかってしまいましたが、なんとか終えることができました。
それから、聴覚障害のある方や、人事担当の方とお話をして、
色々な事情がわかってきました。
「聴覚障害者はビジネスマナーができない」のか?
答えは「NO」です。
それなら、本人に学ぶ姿勢が無いのか?それも、「NO」です。
人によっては、極端にマナーを学ぶ環境が整っていないのです。
「文化的価値観」の違いもあります。
生まれつき障害のある方と、後天性の障害のある方では特に違いがあります。
私たちは、生活や仕事に関する情報の多くを、目と耳で得ています。
226-2
文字を目で追っているつもりでも、私たちは無意識に頭で音読しています。
音が鳴れば、「何の音だろう?」と調べて、物の名前を知ります。
テレビから流れてくる音声にも、たくさんの情報が含まれています。
でも、「聞こえない」「聞こえづらい」聴覚障害者は、受取れる情報が少ない。
知っている単語も少なくなるし、マナーに触れる機会も少ない。
音は、雰囲気や微妙なニュアンスを伝えることもあります。
シーンとしていると、気まずかったり、緊張感があったり。
それがわからずに、いわゆる「空気が読めず」困ることもあるそうです。
中には、自分で勉強したり、進学して、交流の中でものすごい努力をして、
学んでいく聴覚障害者もたくさんいます。
けれど、受取れる情報が少ないからこそ、わからないことが多く、
社会についていけずに悩んでいる方も少なくありません。
「わからない」を「わからない」と言うこと
人事担当者が何度説明しても、身につかない理由がわかりました。
説明を聞いてもわからなかった時、「わかりません」と
言える聴覚障害者がとても少なかったのです。
それにも色々な理由がありました。
● 「わかりましたか?」と言われていることに気づかない
● 意思表示の方法がわからない Ex. 首振り、首かしげなど
● 聞き返すタイミングがわからず、話が終わってしまった
わかったフリをしているわけではなくて、
わからない時にどうすれば良いのかが「わからない」ということです。
メールが書けない、敬語がわからない時の対応
スライド1
このような文章のミスをしてしまう人がいました。
メールの書き方、敬語の使い方は、わかりやすい本や記事が多く出ています。
でもそれはあくまで、「聞こえる人の文化」を元にして書かれたもの。
例えば、手話には複雑な敬語表現がありません。
「です・ます」「申し上げる」などはありますが、音声言語よりも少なく、
また使っている人も少ないので、敬語に馴染みが無い方も多いです。
二重否定などの複雑な表現も、伝わりづらいです。
「その予定がないわけではありません」などがそうです。
手話の文法も音声言語とは違うため、言葉の並びも変わります。
この場合、「敬語を正しく使いましょう」などと教えるのではなくて、
「メールで何を伝えたいのか」「難しいところは箇条書きに」など、
苦手な人もメールを理解しやすい工夫から知ってもらうべきだと思います。
お互いに信頼関係を築くことが大事ビジネスマナーの定着以上に、驚いたことがありました。
受講者に、その場で簡単なヒアリングをした結果です。
● 職場で悪口を言われている気がする…4人/5人中
● あからさまに無視をされたことがある…5人/5人中
● 筆談や説明を嫌がられたことがある…3人/5人中
名称未設定
(高齢・障害・求職者雇用支援機構発行 障害者雇用マニュアル コミック版3より)
例えば、職場の仲間の会話に入れないと、コミュニケーションが取れないだけではなく、
「もしかして嫌われているのでは…」と思ってしまうそうです。
「面倒だから筆談もしたくない」と嫌な顔をされることも多いとか。
そんな経験が積み重なると、人と話すことすら嫌になってしまいます。
結果的に仕事のことが聞けないなんてこともしばしばでしょう。
でも、丁寧に対応をしてくれたり、気持ちをわかってくれる人がいれば、
気持ちは格段に楽になると言う方が多かったです。
コミュニケーションが取りづらいからこそ、関わりを大切に、
わからないことはわからないと言える信頼関係を築くこと
「ビジネスマナー」の習得の近道だと感じました。
最後に
文中でも述べましたが、全員がこのような状態であるわけではなく、
あくまでも個人の環境の違いによって課題があるということです。
このような衝撃の経験をして、
わかりやすい障害者向けの研修を進めています。
色々な研修をさせてもらう中で、確信したことがあります。
それは、健聴者・聴覚障害者が、お互いに歩みよること。努力すること。
研修をどちらか一方だけが受けても、意味がありません。
なぜ、健聴者は聴覚障害者とコミュニケーションが取れないのか。
それは、どうすれば良いか「わからない」だけ。
聞こえない=どういうことなのか「わからない」だけ。
わからないが生み出している負のループが、この社会に生まれています。
健聴者は「わかりやすく伝える工夫」と「信頼関係の構築」が大切です。
聴覚障害者も勇気を持って「自分の状態を伝える」姿勢が大切です。
これを読んで下さった、聴覚障害のある方は、どうすればコミュニケーションがとりやすく、何に困っているのかを、ぜひ教えてあげて下さい。
わからない、が、わかるに変わるだけで、解消されることは沢山あります。
わかるに変えるためには、まず「伝える」ことから。
以上は、
http://www.mirairo.co.jp/archives/5184からの引用です。
私が普段接している聴覚障害者についての実体験を語ってくれています。